Gandhi Legacy

インドに変わった爺さんがいた。裸で歩いていた。貴族出身らしいが、裸同然の布切れ一枚をまとっている。ちゃんと食べていないのか、ずいぶんに痩せている。聞けば、ときどき断食をするらしい。裸の爺さんが歩くと、後ろからたくさんのインド人がついていく。ぞろぞろ、暇なのか、インド人の長い行列が、ひとりの爺さんの後ろにつづく。

「どこへ行くの」
「海まで行く」

イギリス人が、インドの塩を専売していて、値段をつりあげた。イギリス人には、ふところをあたためることが目的だが、インド人にとっては食生活の問題であり、プライドの問題であった。ガンジーはイギリス人に対して、声高に反対しない。ただ、海まで歩きはじめた。海までたどり着くまでに、何万人ものインド人が列に加わった。そしてさらに、海水をくみあげて、塩づくりを始めた。

「ここはインドの海だ。インド人が自分で塩を作って、何か悪いか」

これが史上有名な、ガンジーの「塩の道」。
ガンジーはいつも一人で立ち上がる。しかも、暴力を使わない。「どうして、イギリス人をやっつけないのか」、「暴力はだめだよ。だって、鉄砲で撃たれちゃうじゃないのさ」。

一人の裸の爺さんの、にこにこと笑顔をつくりながらの戦いは、やがて世界に感動を与え、イギリス国民をさえ動かした。地政学の世界では、いまでもGandhi legacyはキーワードになっている。インドの進む道には、パワーポリティクスとは違う次元が期待されているようだ。